れた。芒の葉に切られて、敵も味方も、頬や手足に幾ヵ所の擦《かす》り疵を負った。二人が早縄をかけて立ち上がる時、犬は半七らを導くように吠えて走るので、芒のあいだを付いてゆくと、そこには芒が倒れて乱れているひと坪ほどの空地が見いだされた。新らしく掘り返された土は柔らかく、そこに何物をか埋めてあるように見られたので、大吉の鍬をとって掘り起こすと、土の下には若い大工の死骸が横たわっていた。

  六

「これで捕物は終りました」と、半七老人は云った。「捕物で怪我をしたことは度々ありますが、その時のように芒のお見舞を受けたことはありません。当分は顔や手足がひりひりして、湯に入るにも困りましたよ」
「わたしも曾て石橋山組打の図に俳句を書いてくれと頼まれて『真田股野くらがりの芒つかみけり』という句を作ってやったことがありますが、まったく芒のなかの組打ちは難儀でしょうね」と、わたしは云った。
「うっかりすると眼を突かれますからね」と、老人は笑った。「そこで例の種明かしですが、何からお話し申しましょうかね」
「鋤を持って出た男は何者です」
「それは万養寺の寺男で、名は忠兵衛……梅川と道行《みちゆき》でも
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