を渡って、改代町へ行き着くと、ここらは俗に四軒寺町と呼ばれて、四軒の寺のほかに、古着屋の多い町である。寺々のうしろは草原で、又そのうしろには一面の田畑が広がっている。草原には丈《たけ》の高い芒《すすき》がおい茂って、その白い穂が青空の下に遠くなびいていた。どこかで鵙《もず》の啼く声もきこえた。
 二人は万養寺の前に立った。あまり大きい寺ではないが、内福であるという噂を近所で聞いた。「寺は困るな」と、半七はつぶやいた。「年造は幽霊じゃあねえ、確かにほんものらしい。大吉と一緒にここに潜《もぐ》り込んでいるのだろうと思うが、迂濶に踏み込むわけにも行かねえ。又ぞろ寺社へ渡りを付けるか。うるせえな」
 この時、うしろの草原で犬の吠える声が頻りにきこえるので、二人は顔を見あわせた。半七は先に立って裏手へまわると、草原はなかなか広く、その芒の奥で幾匹かの野良犬が吠えたけっている。二人は犬の声をしるべに、高い芒をかき分けて行くと、その行く手からも芒をがさがさと潜《くぐ》って来る者がある。たがいに先が見えないので、殆ど出合いがしらに眼と眼が向かい合ったとき、善八は俄かに半七の袂《たもと》をひいた。
「大
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