死んで、焼き場へ運んで、骨揚げをして来た奴が、生きていると云うのも不思議だが、関口屋の長屋へも年造の幽霊が出たと云うから、どうかして生きているのかも知れねえ」と、半七は云った。「次右衛門が死にぎわに、年造と云った以上、どうも年造が殺したとしか思われねえ。そこで『大』と云ったのは大工の『大』か、煙草屋の大吉の『大』か、それを考えなけりゃあならねえ。おそらく大吉だろうな」
「そうでしょうか」
「なにしろ此の一件には大吉が係り合っているに相違ねえ。おれにはもう大抵見当がついた。早く大吉を挙げてしまえ。人間はずうずうしくっても、男娼《かげま》あがりのひょろひょろした野郎だ。おめえ一人でたくさんだろう。いや、待て。下手に逃がして何処かの寺へでも逃げ込まれると面倒だ。おれも一緒に行こう」
二人は連れ立って小石川の水道町へゆくと、関口屋の長屋に大吉のすがたは見えなかった。隣りの甚蔵の女房の話によると、大吉は年造の幽霊を怖がっている処へ、又もや家主の関口屋にコロリ患者が二人もつづいて出来たので、いよいよ顫え上がってしまい、とてもこんな処にはいられないと云って、五、六日前から殆ど我が家へは寄りつかない
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