は云った。「わたしに少し店を頼むと云って、次右衛門さんと大さんと一緒に二階へあがって、暫く話していました」
半七は二階へあがって見ると、狭い四畳半は案外に綺麗に片付いていた。念のために戸棚をあけてあらためたが、そこにはちっとばかりのがらくたを押し込んであるばかりでなく、これぞというほどの物も見あたらなかった。更に台所へ降りて来て、揚げ板などを払ってあらためたが、ここにも変ったことは無かった。
「次右衛門は、死にぎわに何か云ったそうだね」
「はい」と、喜兵衛は答えた。「それが微かな声でよく聴き取れなかったのですが……。なんでも『大……年……年造』と云ったように聞こえましたが……」
「そうすると大工の年造だね」と、善八は云った。
「ですが、その年造という人は、コロリで死んだそうですから……」
「おめえは二、三日前の晩に見たと云うじゃあねえか」と、善八は又云った。
「それは人違いかも知れませんので、どうもはっきりした事は申し上げられません」
これで先ずひと通りの調べを終って、半七と善八はここを出た。
「大工の年造という奴は生きているんでしょうか」と、善八はあるきながら訊いた。
「コロリで
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