たらしい。お由ばかりでなく、お琴もお袖も同じ運命に陥らないとは限らない。お由ひとりが人身御供《ひとみごくう》になって、それでかむろ蛇の祟りが消えるのか、三人ながら同じ祟りを受けるのか、そんなことは誰にも判らない秘密である。主人らは冷静というよりも、強い恐怖にとらわれて、一時は碌々に口も利かれなかったのであろう。しかもお由の親許では、その態度を不人情と難じた。
「いくら不人情にしたところで、親許で娘の死骸を引き取らねえというのは判らねえ」と、半七は云った。
「関口屋で殺したとでも云うのか」
「まさかに殺したとも云いませんが、寝床で蝮に咬まれたなんぞと云うのは、どうもまじめに聞かれねえ。ましてかむろ蛇なんぞは作り話だか何だか判らねえ。大事の娘が死んだ以上、どうして死んだのか確かに判らねえでは、迂濶《うかつ》に死骸を引き取ることは出来ねえと、こう云うのだそうで……。関口屋でも相当の弔い金は出す気でいるのだが、親の方じゃあ五百両か千両も取るつもりでいるらしいので……」
「五百両か千両……」と、半七もすこし驚かされた。「人間の命に相場はねえと云っても、奉公人が死んだ為に五百両も千両も取られちゃあ
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