して厄介になった以上、自分の家《うち》は本所だとか浅草だとか話して行くだろうから、それもよく調べて来てくれ。恨みや因縁にもいろいろある。あの女があの鶏をひどい目に逢わせて、それを鳥屋へ売り飛ばしたのが、測《はか》らずここでめぐり合って、鶏がむかしの恨みを返したというような事ででもあれば、飛んだ猿蟹合戦か舌切り雀で、どうにも仕様のねえことだが、何かもう少し入り組んだ仔細がありそうにも思われる。まあ、無駄と思って洗ってみようぜ」
「承知しました」
「それから、あの女房は鶏を絞めると云っていたが、もしまだ無事でいるようだったら、もう少し助けて置くように云ってくれ」
この頃の春の日はまだ短いので、二人は暗くなってから江戸へはいった。途中で庄太に別れて、半七は三河町の家へ帰ると、すぐに手拭をさげて出た。
「信心まいりに行って、愚痴を云っちゃあ済まねえが、きょうは全く寒かった」
近所の銭湯へゆくと、五ツ(午後八時)過ぎの夜の湯は混雑していた。半七は柘榴口《ざくろぐち》へはいって体を湿《しめ》していると、湯気にとざされていた風呂のなかで、男同士の話し声がきこえた。
その一人もきょうの初大師に参
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