半七捕物帳
大森の鶏
岡本綺堂
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)銭湯《せんとう》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)矢の字|尽《づく》しも
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)女はあっ[#「あっ」に傍点]と驚いて
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一
ある年の正月下旬である。寒い風のふく宵に半七老人を訪問すると、老人は近所の銭湯《せんとう》から帰って来たところであった。その頃はまだ朝湯《あさゆ》の流行っている時代で、半七老人は毎朝六時を合図に手拭をさげて出ると聞いていたのに、日が暮れてから湯に行ったのは珍らしいと思った。それについて、老人の方から先に云い出した。
「今夜は久しぶりで夜の湯へ行きました。日が暮れてから帰って来たもんですから……」
「どこへお出かけになりました」
「川崎へ……。きょうは初大師の御縁日で」
「正月二十一日……。成程きょうは初大師でしたね」
「わたくしのような昔者《むかしもの》は少ないかと思ったら、いや、どう致しまして……。昔よりも何層倍という人出で、その賑やかいには驚きました。尤も江戸時代と違って
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