、あの女と……なにか因縁があるのじゃあねえかしら……」
「ふむう。そんな事もねえとも云えねえが……」と、庄太は首をかしげた。「しかし相手が畜生ですからねえ」
「畜生だからたれかれの見さかいなしに飛びかかった……。そう云ってしまえば仔細はねえが、畜生だって相当の料簡がねえとは云えねえ。主人を救った犬もある。恨みのある奴を突き殺した牛もある。あの鶏もあの女に何かの恨みがあるのかと、考えられねえ事もねえと思うが……」
「成程、そう云えばそうだが……。あの女の風体《ふうてい》が……」と、庄太は又かんがえた。「鶏に縁がありそうにも見えねえが……。鳥屋の女房かね」
「まあ、そんなことかも知れねえ。なにしろ、あの女は堅気の人間じゃあなさそうだ。どうも何処かで見たことがあるように思われるのだが……。きょうは仕方がねえから此のまま引き揚げることにして、おめえ御苦労でもあしたか明後日《あさって》、もう一度出直して来て、あの女はそれからどうしたかと訊きただしてくれ。もちろんどっ[#「どっ」に傍点]と倒れてしまうほどの怪我じゃあねえから、医者にひと通りの手当てをして貰って、駕籠で江戸へ帰るに相違あるめえ。ああ
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