の者は、いずれも多左衛門に劣らぬ数寄者《すきしゃ》であるから、勿論その絵馬を知っていた。そうして、丸多の主人がどうしてそれを手に入れたかを驚き怪しんで、みんな口々にその事情を訊《き》きただしたが、得意満面の多左衛門は唯にやにやと笑っているばかりで、詳しい説明をあたえなかった。
そうなると一種の好奇心も手伝って、会員の幾人かはその後大宮八幡へ見とどけに行くと、かの絵馬は依然として懸かっているので、人々はまた不思議に思った。丸多は自分の物のように云っているが、実は神官になんとか頼んで、大会の当日だけひそかに借り出して来たのであろうと想像して、ある者は丸多の宅へ押し掛けて詰問すると、多左衛門は笑いながら彼の絵馬を出して見せたので、その人は又おどろかされた。同じ絵馬が世に二つと無い以上、その一つは偽物《にせもの》でなければならない。どう考えても、由井正雪の絵馬、殊にその画面も寸分違わないような同一の絵馬がほかにあろうとは思われないので、更にその出所を根掘り葉掘り詮議すると、多左衛門は声をひそめて話した。
「これはお前さんだけに極内《ごくない》でお話し申すが、実は八幡様から盗み出して来たのです
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