半七捕物帳
正雪の絵馬
岡本綺堂
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)修羅場《しゅらば》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)塚原|渋柿園《じゅうしえん》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)うっかり[#「うっかり」に傍点]
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一
これも明治三十年の秋と記憶している。十月はじめの日曜日の朝、わたしが例によって半七老人を訪問すると、老人は六畳の座敷の縁側に近いところに坐って、東京日日新聞を読んでいた。老人は歴史小説が好きで、先月から連載中の塚原|渋柿園《じゅうしえん》氏作『由井正雪』を愛読しているというのである。半七老人のような人物が歴史小説の愛読者であるというのは、なんだか不似合いのようにも思われるが、その説明はこうであった。
「わたくしは妙な人間で、江戸時代の若いときから寄席の落語や人情話よりも講釈の修羅場《しゅらば》の方がおもしろいという質《たち》で、商売柄にも似合わないとみんなに笑われたもんですよ。それですから、明治の此の頃流行の恋愛小説なんていうものは、何分わたくし共のお歯に合わないので、
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