なことが出来《しゅったい》するか判らねえ。私もおまえの主人とは懇意にしているのだから、なんとか無事に納めてやりてえと、このあいだから心配しているのだ。おまえの主人も今じゃあ後悔して、万事よろしく頼むというのだが、なにしろ莫大の金のいる仕事だ。こういうことは一人や二人に金轡《かなぐつわ》を嵌《は》めても、ほかの口から発《あば》き立てられちゃあ仕方がねえ。お奉行は別としても、南北の両奉行所に付いている与力同心は三百人もある。一人に十両と廉《やす》く積もっても、三千両はすぐに消えてしまう。岡っ引だって顔のいい奴には何とか挨拶をして置かなけりゃあならねえ。そんなこんなを併《あわ》せると、まず四、五千両は要るだろう。勿論、大金には相違ねえが、主人の命も助かり、丸多の店も無事に助かるということを考えれば、高いようで廉いものだ」
 この事件を揉み消すには、まず岡っ引の口を塞がなければならないというので、万次郎は多左衛門から百両ずつの金を二度うけ取った。しかしそんな事で済むわけは無いので、あとの金を早く工面《くめん》するように迫っているが、多左衛門はなぜか渋っているので、とかくに埒が明かないと、彼はや
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