留めてから喜平次と伊太郎とが何か話していた。おまけに、用意の袂提灯を出して喜平次は血の付いた手を田川の水で洗った。そんなことで、下手人《げしゅにん》はこの二人だということを辰公に覚られてしまったんです。そこで辰公はその翌日、植木屋の長助にその話をすると、長助も一旦は驚いたが、そんなことを滅多《めった》に云ってはならないと、辰公に堅く口止めをしたんです。闇討ちが発覚すると、ズウフラの一件も発覚して、辰公は勿論、それを煽動した自分までが飛んだ係り合いになるのを恐れたからです。今でもそうですが、昔の人間はひどく引き合いということを忌《いや》がりましたからね」
「長助をなぐったのは誰ですか。辰公じゃあないんですか」
「お察しの通りですよ。長助は係り合いになるのを怖がって、闇討ち以来もうズウフラを持ち出すなと辰公に云い聞かせたので、その当座は止めていたんですが、根が薄馬鹿の辰公ですから、三日四日経つと又持ち出した。そこへ丁度に長助が通り合わせて、この馬鹿野郎めと散々叱り付けた上に、そのズウフラを取り上げようとすると、辰公も承知しない。いきなりズウフラを振り上げて、相手の額を力まかせに殴り付けたん
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