町の藤次郎と露月町《ろうげつちょう》の平七と三人連れで、きょうは川崎の大師河原へ日がえりで参詣にゆく約束をして、たがいに誘い歩いているのは面倒であるから、七ツ半までに高輪《たかなわ》の大木戸へ行って待ちあわせるということになっていたのである。その三人のうちで藤次郎が一番さきに出て行ったらしく、大木戸のあたりに他の二人の姿がまだ見えないので、しばらくそこらに待ちあわせていたが、海端《うみばた》の朝は早く明けて、東海道の入口に往来の人影もだんだんに繁くなる頃まで、庄五郎も来ない、平七もみえないので、藤次郎も不思議に思った。病気その他の故障が起ったとしても、ふたり揃って違約するのはおかしい。二十一日は大師の縁日であるから、その日を間違える筈もない。ともかくも引っ返して本人たちの家をたずねてみようと思って、まず手近の庄五郎の門《かど》をたたいたのであった。
それを聞いて、お国はいよいよ不安を感じた。亭主の庄五郎はとうに身支度をして出て行ったのである。高輪の海辺は真っ直ぐのひと筋道であるから、迷う筈もなければ行き違いになる筈もない。殊に庄五郎ばかりでなく、平七までが姿を見せないというのは不思議
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