半七捕物帳
三つの声
岡本綺堂
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)三《みっ》つの声《こえ》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)とろとろ[#「とろとろ」に傍点]
−−
一
芝、田町《たまち》の鋳掛屋《いかけや》庄五郎が川崎の厄除《やくよけ》大師へ参詣すると云って家を出たのは、元治元年三月二十一日の暁方《あけがた》であった。もちろん日帰りの予定であったから、かれは七ツ(午前四時)頃から飛び起きて身支度をして、春の朝のまだ明け切らないうちに出て行ったのである。
庄五郎の家は女房のお国と小僧の次八との三人暮らしで、主人が川崎まいりに出た以上、きょうは商売も休み同様である。ことに七ツを少し過ぎたばかりであるから、表もまだ暗い。これからすぐに起きては早いと思ったのと、主人の留守に幾らか楽寝《らくね》する積りであったのとで、庄五郎が草鞋《わらじ》をはいて出るのを見送って、女房は表の戸を閉めた。女房は茶の間の六畳に、小僧は台所のわきの三畳に寝ることになっているので、二人は再びめいめいの寝床にもぐり込んで、あたたかい春のあかつき
次へ
全28ページ中1ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング