重大にも認められず、最初の検視では単に庄五郎自身の過失《あやまち》で海中に転げ込んだものとして、至極手軽く済んでしまったのであるが、ここを縄張りとする伊豆屋の一家ではそのままに見過ごさないで、一の子分の妻吉が主として探索の末に、かの平七がお国に恋慕していて、亭主がなければと冗談のように云ったことを探り出したのが手がかりに、だんだんに探索を進めて遂に平七を引き挙げるまでに至ったのは、さすがに伊豆屋の腕前であると熊蔵は云った。
その話をきいて、半七は又かんがえていた。
「なるほど、それで大抵わかった。そこで、平七が先ず庄五郎を殺して置いて、それから引っ返して来て庄五郎の家《うち》の戸をたたいて、自分はこれから行くように見せかけた……その段取りは判っているが、聞けば平七が戸をたたいて行ったあとで、亭主の庄五郎が帰って来て声をかけたというじゃあねえか。平七が殺してしまったものならば、そのあとへ庄五郎が帰って来そうもねえものだ。まさか幽霊でもあるめえ」
「いや、わっしも初めはそう思ったが、あとで聞いてみると詰まらねえ話さ」と、熊蔵は笑いながら、説明した。
「だんだん調べると、それは藤次郎という
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