あると云った。いよいよ押借りであると見きわめた番頭は、彼等が何を取り出すかと見ていると、その風呂敷からは血に染《し》みた油紙が現われた。更に油紙を取りのけると、その中から一つの生首《なまくび》が出たので、番頭もぎょっとした。ほかの者共はもう息も出なかった。
それが彼等をおどろかしたのは、単に人間の首であるというばかりではなかった。それは日本人の首とはみえなかった。髪の毛の紅い、鬚《ひげ》のあかい、異国人の首であるらしいことを知った時に、かれらは一倍に強くおびやかされたのであった。侍どもはその生首を番頭のまえに突きつけて、これを見せたらば諄《くど》く説明するにも及ぶまい、われわれは攘夷の旗揚げをするもので、その血祭《ちまつ》りに今夜この異人の首を刎《は》ねたのである。迷惑でもあろうが、これを形代《かたしろ》として軍用金を調達してくれと云った。相手が普通の押借りであるならば、一人|頭《あたま》五両ずつも呉れてやって、体《てい》よく追い返す目算であった番頭も、人間の首、殊に異人の首を眼のさきへ突きつけられて、俄かに料簡を変えなければならなくなった。
攘夷の軍用金を口実にして、物持ちの町家
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