用しなかった。無断で人のものを持ち出してゆくようなお前たちがその約束を実行する筈がないと彼は云った。しかしロイドの方にも同類の弱味があるので、勝蔵は多寡をくくって取り合わなかった。三人のあいだに遂に同士討ちの格闘が起った。かれらは自分たちのうしろに黒い影の付きまとっているのを知らなかった。
半七の縄にかかって、勝蔵と寅吉は白状した。かれらも最初は強情を張っていたのであるが、舶来の人形の首――この一句に肝《きも》をひしがれて、もろくも一切の秘密を吐き出してしまったのであった。
それについて、半七老人はわたしにこう語った。
「まえにも申す通り、異人の首がむやみに手に入るわけのものじゃあるまい。もしほんとうに首を取ったとすれば一大事で、とうに奉行所の耳にもはいっている筈です。だが、偽首となると髪の毛がわからない。その紅い毛は日本人の毛じゃあない。といって、獣《けもの》の毛でもない。もちろん唐蜀黍《とうもろこし》でもないと云う。そこでわたくしは舶来の人形ではないかとふと考えたんです。その前の年に横浜に行って、実によく出来ている舶来の人形を見せられたことがありますから、この種はどうも横浜か
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