とにしたが、その時ロイドには無断で商売道具の蝋人形を持って行ってしまったのである。江戸ではまだこの新手《あらて》を知るまいと思ったので、かれらはその首をかかえ出して神田や深川で例の軍用金を徴収した。そうして、ひと晩のうちに首尾よく二百五十両を稼いだので、二人はすぐに吉原へ繰り込んだが、そこの遊びがどうも面白くなかった。やっぱり神奈川がいいと勝蔵が云い出すと、寅吉も同感であった。神奈川の遊びの味をわすれられない彼等は、からだのあやういのを知りながら又もや港崎町へ引っ返してくると、岩亀楼でロイドに出逢った。
 ロイドはかれらの顔をみると、すぐに蝋人形をかえしてくれと迫った。ここには持っていないと云っても、ロイドは承知しなかった。人出入りの多いところでそんなことを云い合っていて、万一他人の耳にはいったらお互いの身の破減であるから、ともかくも表へ出てくれと勝蔵が云うと、ロイドは一と足先に出て往来に待っていた。勝蔵と寅吉もつづいて出た。三人は一緒に大門を出て暗い路をたどりながら話した。勝蔵はもう少し人形をこちらへ貸して置いてくれ、そうすれば、二、三百両の金をつけて戻すと云ったが、ロイドはそれを信
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