でいるうちに、悪魔が彼の魂に巣くった。
 彼が先ず発議したのか、あるいは勝蔵が思い付いたのか、その辺の事情は確かでないが、勝蔵はロイドの発案であると主張している。いずれにしても二人がひそかに相談の末に、この頃はやる偽攘夷家の押借りをたくらんだのである。しかし偽者の多いことは世間でも大抵知って来たので、単に口さきで嚇したばかりでは睨みが利かないと思って、かれらは真の攘夷家であることを証明するためと、あわせて相手を威嚇するために、異国人の生首をたずさえてゆくことを案出した。勿論、ほんとうの生首などがむやみに手に入るわけでもないのであるが、それに究竟《くっきょう》の道具があった。ロイドは蝋細工の大きい人形を故郷から持って来ていた。それは上半身の胸像のようなもので、大きさは普通の人間とおなじく、髪の毛も長く植えてあった。その蝋細工はすこぶる精巧に造られていて、ほんとうの人間のようだと勝蔵もふだんから驚嘆していたのであるが、それを今度役に立てることになって、ロイドはその首を打ち砕いた。喉《のど》の切り口や頬のあたりには糊紅《のりべに》をしたたかに塗った。
 こうして出来あがった異人の首を、勝蔵が
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