引っさげて攘夷の軍用金をまきあげていた浪人組は、果たして勝蔵とその友達の寅吉であった。食いつめ者の勝蔵は江戸から横浜へ流れ込んで、トムソンの商館のボーイに雇われているうちに、日本の事情によく通じない外国人を誤魔化して、彼は少しくふところを温《あった》めたので、すぐに港崎町の廓通《くるわがよ》いをはじめて、岩亀楼の小秀という女を相方《あいかた》に、身分不相応の大尽風《だいじんかぜ》を吹かせていたが、所詮はボーイの身の上でそんな贅沢遊びが長くつづく筈はないので、かれは年の若い番頭のロイドを誘い出して、自分の遊び友達にすることを考えた。勿論、かれはその案内役で、いっさいの勘定はいつでもロイドに負担させていた。
 ロイドが馴染んだのは夕顔という若いおとなしい女であった。彼はこの日本のムスメに若い魂をかきみだされて、去年の夏頃から毎晩のように通いつめたので、商館から受け取る月々の給料は勿論、本国から幾らか用意して来た金も残らず港崎町へ運んでしまった。横浜に来ている同国人のあいだにも義理のわるい負債が嵩《かさ》んだ。それでも日本のムスメを忘れることが出来ないので、かれは悶々の胸をかかえて苦しみ悩ん
前へ 次へ
全35ページ中29ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング