立て地を出はずれる頃からは更に暗い田圃路《たんぼみち》になった。そこらでは早い蛙が一面に鳴いていた。
 先に立ってゆく三人はしきりに小声で話していたが、やがてその声が高くなって、ロイドは片言《かたこと》で云った。
「日本の人、嘘云うあります、わたくし堪忍しません」
「なにが嘘だ。さっきからあれほど云って聞かせるのが判らねえのか」
「判りません、判りません。あなたの云うことみな嘘です」と、ロイドは激昂したように云った。
「あの品、わたくし大切です。すぐ返してください」
「返せと云っても、ここに持っていねえのは判り切っているじゃあねえか」
 こういう押し問答が繰り返された後に、勝蔵はロイドを突きのけて行こうとするのを、かれは追いかけて引き戻した。ひとりの異人と二人の日本人とは狭い田圃路で格闘をはじめた。それをみて、半七は子分らに声をかけた。
「異人は打っちゃって置いて、勝蔵ともう一人の奴を取っ捉まえろ」
 三五郎と松吉はすぐに駈け出して行って、有無《うむ》を云わせずに二人の日本人を取り押えた。ロイドはおどろいて一目散《いちもくさん》に逃げ去った。

 これで問題は解決した。
 異人の生首を
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