しらせて、少しく混雑の群れから離れた。三人は桜のかげにたたずんで、若い異人の挙動をうかがっていた。
「そこが岩亀ですよ」と、三五郎はまた教えた。
 ロイドは岩亀の店さきから二、三間|距《はな》れたところに立ち暮らして、誰かを待ち合わせているらしかった。果たして岩亀の店口から二人づれの男が出てきた。そのあとから引手茶屋の女が付いて来た。それをみると、ロイドは柳の蔭からつかつかと出て行って、立ち塞がるように二人のまえにその痩せた姿をあらわすと、彼等はそこに立ちどまって何か小声で話し合っているらしかったが、やがて二人は茶屋の女に別れて、ロイドと一緒にあるき出した。
「あの一人が勝蔵ですよ」
 三五郎に教えられて、半七はうなずいた。かれは三五郎と松吉にささやいて、異人と二人の男とのあとを追ってゆくと、廓内《かくない》はいろいろ人の出盛る時刻となって、ややもすると其の混雑のなかで相手を見うしないそうになったが、丈《たけ》のたかい異人を道連れにしているので、勝蔵らはその尾行者の眼から逃がれることが出来なかった。大門を出ると、路はだんだんに暗くなった。駕籠屋や煮売り酒屋の灯の影がまばらにつづいて、埋
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