がほんとうの異人の髪の毛であるか、あるいは何かの薬か絵の具で染めたものであるか、それを確かめた上でなければ、どうにも見当のつけようがなかった。
半七はあくる朝、八丁堀同心の屋敷をたずねて、神田と深川の出来事を報告した。世の中のみだれている江戸の末であるから、それがほん者の攘夷家か偽浪士か、八丁堀の役人たちにも容易に判断をくだすことが出来なかった。いずれにしても半七の意見に付いて、まずその髪の毛を鑑定させることになって、ある蘭法医のところへ送って検査させると、それは日本人の毛髪を薬剤や顔料で染めたものではないらしい。さりとて獣《けもの》の毛でもない。おそらく異人の毛であろうという鑑定であった。
例の偽浪士がどこかの墓をあばいて、死人の首を取り出して、その髪の毛を塗りかえるか、あるいは一種の鬘《かつら》をかぶせて、顔もいい加減に化粧して、異人の首らしく巧みにこしらえて、それを抱えてあるいているのではないかと半七も初めは疑っていたのであるが、果たしてほんとうの異人の毛であるとすれば、かれも更にかんがえ直さなければならなかった。しかしこの当時、江戸に在住の異人は甚だ少数である。公使領事のほ
前へ
次へ
全35ページ中13ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング