意らしく説明した。「なにか手がかりになるものはねえかと、わっしも蚤取眼《のみとりまなこ》でそこらを詮議すると、土間の隅にこんなものが一本落ちていたんです。店の掃除をするとき掃き落したんでしょう」
「むむ」と、半七はその紙を手の上に拡げて見た。「異人の首の髪の毛らしいな」
「そうです。そうです、奴らが首を持ち出して拈《ひね》くりまわしているうちに、一本か二本ぬけて落ちたのを誰も気がつかずにいて、けさになって小僧どもが掃き出してしまったんでしょう。どうです、何かのお役に立ちませんかね」
「いや、悪くねえ。いい見付け物だ。おめえにしちゃあ大出来だ。そこで、深川へ押し込んだのはゆうべの何どきだ」
「五ツ頃だそうですよ」
「まだ宵だな。それから末広町へまわったのか。ひと晩のうちによく稼ぎゃあがる」と、半七は再び舌打ちした。「なにしろ、これはおれが預かっておく」
「ほかに御用はありませんかえ」
「そうだな、まずこの髪の毛をしらべて見なけりゃあならねえ。すべての段取りはそれからのことだ。あしたの午《ひる》ごろに出直して来てくれ」
松吉を帰したあとで、半七は一本のあかい毛をいつまでも眺めていた。それ
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