ようだぜ」
「ところが、これは大丈夫、正銘《しょうめい》まがいなしの折紙付きという代物《しろもの》です。宗匠、まあ御覧ください」
風呂敷をあけて勿体《もったい》らしく取り出したのは、芭蕉の「枯枝に烏のとまりけり秋の暮」の短冊であった。それが真物《ほんもの》でないことは其月にもひと目で判った。もう一つは其角の筆で「十五から酒飲みそめて今日の月」の短冊で、これには其月もすこし首をかたむけたが、やはり疑わしい点が多かった。其月は無言で二枚の短冊を惣八のまえに押し戻すと、その顔つきで大抵察したらしく、惣八は失望したように云った。
「いけませんかえ」
「はは、大抵こんなことだろうと思った。承知していながら、押っかぶせようというのだから罪が深い」と、其月は取り合わないように笑っていた。
「どっかへ御世話は願えないでしょうか」
其月はだまって頭《かぶり》をふった。
「困ったな」と、惣八はあたまを掻いていた。「其角の方もいけませんかしら」
「どうもむずかしい」
「やれ、やれ」と、惣八は詰まらなそうにしまい始めた。「ところで、もう一つ御相談があるんですがね」
今度の相談は例の金魚で、寒中でも湯のな
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