半七捕物帳
冬の金魚
岡本綺堂

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)稗蒔売《ひえまきうり》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)神田|松枝町《まつえちょう》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]
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     一

 五月のはじめに赤坂をたずねると、半七老人は格子のまえに立って、稗蒔売《ひえまきうり》の荷をひやかしていた。わたしの顔をみると笑いながら会釈《えしゃく》して、その稗蒔のひと鉢を持って内へはいって、ばあやにいいつけて幾らかの代を払わせて、自分は先に立って私をいつもの横六畳へ案内した。
「急に夏らしくなりましたね」と、老人は青々した小さい鉢を縁側に置きながら云った。「しかし此の頃はなんでも早くなりましたね。新暦の五月のはじめにもう稗蒔を売りにくる。苗屋の声も四月の末からきこえるんだから驚きますよ。ゆうべも一ツ木の御縁日に行ったら、金魚屋が出ていました。人間の気が短くなって来たか
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