かで生きている朱錦《しゅきん》のつがいがある。それをどこへか売り込む口はあるまいか。売り手は二匹八両二歩と云っているのであるが、二歩はたしかに負ける。八両で売り込んでくれれば、宗匠にも二両のお礼をするというのであった。其月はまた笑った。
「おまえも慾がふかい男だ。商売のほかにいろいろの儲け口をあせるのだな」
「世が悪くなりましたからね。本業ばかりじゃ立ち行きませんよ」と、惣八も笑った。「ねえ、宗匠。この方はどうでしょう」
 それは其月にも心あたりが無いでもなかった。その金魚がほんものならば何処へか世話をしてやってもいいと答えると、惣八は急に顔の色を直した。
「ありがたい。是非一つお骨折りをねがいます。売り主も大事にしているんですから、その買い手がきまり次第、持って来てお目にかけます。このごろの相場として雌雄二匹で八両ならば廉《やす》いものです。十両から十四五両なんていうばかばかしい飛び値がありますからね。流行物《はやりもの》というものは不思議ですよ」
「まったく不思議だね」
 話が済んで、惣八が帰りかけると、出合いがしらに十七八の小綺麗な女が帰って来た。かれは女中のお葉《よう》であった
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