なったわけです。問題の雷獣は、おかんの白状によると、最初の時にはほんとうに見たというのです。二度目の時にはそれから思いついて、重吉の顔や手さきを掻きむしったのだといいます。勿論、善いことじゃありませんが、かんがえてみると可哀そうで、おかんがいよいよ死罪と聞いたときには、私もなんだか忌《いや》な心持がしましたよ」
「可哀そうも可哀そうですが、女というものは恐ろしいもんですね」
「まったく恐ろしい。あなたなんぞは若いから気をおつけなさい。いや、恐ろしいの何のと云っても、今のおかんという女なんぞは、そこに自然と憐れみも出ますけれど、なかには、まだ肩揚げもおりない癖に、ずいぶん生《い》けっ太《ぷと》い奴がありますからね。まあ、お聴きなさい、こんな奴もありますよ」
云いかけて老人は笑いながら私の顔を見た。
「あなたは甘酒はどうです」
「子供のときに飲んだきりですが……」と、わたしも笑った。
「あれは江戸の夏のものですよ。固練《かたね》りのいいのを貰ったのがあります。息つぎに一杯あっためさせますから、あなたもお附き合いなさい」
「久し振りで御馳走になりましょう」
三
あま酒で元気
前へ
次へ
全31ページ中17ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング