半七捕物帳
雷獣と蛇
岡本綺堂
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)薄縁《うすべり》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)浅草|三好町《みよしちょう》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、底本のページと行数)
(例)あれ[#「あれ」に傍点]という間も
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一
八月はじめの朝、わたしが赤坂へたずねてゆくと、半七老人は縁側に薄縁《うすべり》をしいて、新聞を読んでいた。
狭い庭にはゆうべの雨のあとが乾かないで、白と薄むらさきと柿色とをまぜ栽《う》えにした朝顔ふた鉢と、まだ葉の伸びない雁来紅《はげいとう》の一と鉢とが、つい鼻さきに生き生きと美しく湿《ぬ》れていた。
「ゆうべは強い雷でしたね。あなたは雷がお嫌いだというからお察し申していましたよ。小さくなっていましたかい」と半七老人は笑っていた。「しかし昔にくらべると、近来は雷が鳴らなくなりましたね。だんだんと東京近所も開けてくるせいでしょう。昔はよく雷の鳴ったもんですよ。どうかすると、毎日のように夕だちが降って、そのたんびにきっとごろごろぴかりと
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