三郎は顔をみせないので、半七は日本橋辺へ用達しに行った足ついでに、通旅籠町《とおりはたごちょう》の河内屋をたずねると、忠三郎はすぐに出て来た。かれは気の毒そうに云った。
「親分さん。まことに申し訳ございません。早速うかがいたいと存じて居りますのですが、なにぶんにも稲川様のお屋敷の方が埒《らち》が明きませんので……」
「御用人が一緒に行ってくれないんですかえ」
「年末は御用繁多で、とてもそんな所へ出向いてはいられないから、来春の十五日過ぎ頃まで待っていろと仰しゃるので……。それを無理にとも申し兼ねて、わたくしの方でも困って居ります」
「そりゃあまったく困りましたね。年末と云ったってまだ二十日前だから、そんなに忙がしいこともあるまいに……」
「わたくしもそう思うのですが、なにぶんにも先方でそう仰しゃるもんですから……」と、忠三郎もひどく困ったらしい顔をしていた。
「いや、ようございます」と、半七はうなずいた。「向うでそう云うなら、こっちにも又考えがあります。まあ、御安心なさい。もう大抵の見当はつきましたから」
 忠三郎に安心させて、半七は神田の家へ帰ってくると、仙吉が待っていた。
「親分、
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