、碌にわからねえ奴だったと見えて、いい加減に廉《やす》く売ってしまったので、万助は大喜び、とんだ掘り出しものをして一と身代盛りあげる積りで、家へ帰って女房なんぞにも自慢らしく吹聴していたんですが、実は自分にもまだ確かに見きわめが付かねえので、ある眼利《めき》きのところへ持って行って鑑定して貰うと、なるほどよく出来ているが真物《ほんもの》じゃあない、これはたしかに贋物だと云われて、万助め、がっかりしてしまったんです。野郎、千両の富籤《とみくじ》にでも当った気でいたのを、大番狂わせになったんですからね。はははははは。いや、万助ばかりじゃあねえ、わっしも実はがっかりしましたよ」
「いや、がっかりすることはねえ」と、半七は笑いながら云った。「仙吉。おめえにしちゃあ大出来だ。これからもう一度万助のところへ行って、その贋物を売った道具屋はどんな奴だか、よく訊いて来てくれ」
「でも親分、それは贋物ですぜ」
「贋物でもいい。それを売った奴が判ったら、それからすぐにそいつの居どこを突きとめて来てくれ。なるたけ早いがいいぜ」
「承知しました」
 仙吉は怱々《そうそう》に出て行った。
 あくる朝になっても忠
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