半七捕物帳
化け銀杏
岡本綺堂

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)三月《みつき》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)茶道具|一切《いっさい》を

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)ぎょっ[#「ぎょっ」に傍点]
−−

     一

 その頃、わたしはかなり忙がしい仕事を持っていたので、どうかすると三月《みつき》も四月も半七老人のところへ御無沙汰することがあった。そうして、ときどき思い出したように、ふらりと訪ねてゆくと老人はいつも同じ笑い顔でわたしを迎えてくれた。
「どうしました。しばらく見えませんね。お仕事の方が忙がしかったんですか。それは結構。若い人が年寄りばかり相手にしているようじゃあいけませんよ。だが、年寄りの身になると、若い人がなんとなく懐かしい。わたくしのところへ出這入りする人で、若い方《かた》はあなただけですからね。伜はもう四十で、ときどき孫をつれて来ますが、孫じゃあ又あんまり若過ぎるので。はははははは」
 実際、半七老人のところへ出入りするのは、みな彼と同じ年配の老人であるらしかった。その故《ふる
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