井戸端で啖い殺されていた。勿論それも同じ鬼娘の仕業《しわざ》であることに決められてしまった。
 諸人の不安がだんだん募って来た時、鬼娘は更に第三の生贄《いけにえ》を求めた。それは庄太のとなりに住んでいるお作という娘であった。庄太の家はかの酒屋から遠くない露路のなかで、そこには裏店《うらだな》としてやや小綺麗な五軒の小さい格子作りがならんでいた。庄太の家は露路の口から四軒目で、隣りの長屋にお作という娘が母のお伊勢と二人で暮らしていた。その奥は空地になっていて、そこには大きい掃溜《はきだ》めがあった。昔から栽《う》えてある大きい桜が一本立っていた。お作は浅草の奥山の茶店に出ているが、そのほかに内々で旦那取りをしているとかいうので、近所の評判は余りよくなかった。そんな噂もあるだけに、母子《おやこ》はいつも身綺麗にして、不足もないらしく暮らしていた。隣り同士でもあり、殊に庄太の商売を知っているので、お作親子はふだんから愛想よく彼に附き合って、いろいろの物をくれたりした。
 お作が啖い殺されたのは、ゆうべの六ツ半(午後七時)を過ぎた頃であった。いつもの通りに奥山の店から帰って来て、かれは台所で行
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