て、どうも同じ人間であるらしいと思われた。そうして、その怪しい女とお伝の死と、そのあいだにも何かの関係があるらしく思われて来た。鼻緒屋の娘は運よく逃《のが》れたが、酒屋の下女は運わるく啖い殺されたのではあるまいか。こういう風に二つの事件をむすび付けて解釈すると、かれは一種のおそろしい鬼女であるかも知れない。鬼婆で名高い浅茅《あさじ》ヶ原に近いだけに、鬼娘の噂がそれからそれへと仰々《ぎょうぎょう》しく伝えられて、残暑の強いこの頃でも、気の弱い娘子供は日が暮れると門涼《かどすず》みに出るのを恐れるようになった。
 それでも鬼女の奇怪な事実はまだ一般には信じられなかった。ある人々はそれを臆病者の噂と聞き流して、いわゆる高箒《たかぼうき》を鬼と見るたぐいに過ぎないと冷笑《あざわら》っていた。しかもそれから又|十日《とおか》と経たないうちに、強い人々もいよいよ臆病者の仲間入りをしなければならないような事件が重ねて出来《しゅったい》した。鬼娘が又もや一人の女を屠《ほふ》[#ルビの「ほふ」は底本では「ほう」]ったのである。それは山《やま》の宿《しゅく》の小間物屋の女房で、かれは誰も知らない間に、裏の
前へ 次へ
全33ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング