り合いが出来て、ときどきにそっと泊まり込みにゆくらしいという噂もある。それらの事実を探り出して、ふたりはここを立ち去った。
「さあ、もうひと息だ」
半七は先に立って歩いた。お国の菩提寺は、中の郷の普在寺であると聞いたのを頼りに訪ねてゆくと、その寺はすぐに知れた。小さい寺ではあるが、門内の掃除は綺麗に行きとどいて、白い百日紅《さるすべり》の大樹が眼についた。入口の花屋で要りもしない線香と樒《しきみ》を買って、半七はそこの小娘にそっと訊いた。
「ここのお住持はなんという人だえ」
「覚光さんといいます」
「本所からお国さんという髪結さんが時々来るかえ」
「ええ」と、娘はうなずいた。
「泊まって行くこともあるかえ」
娘はだまっていた。
「それから、やっぱり本所の方から尼さんが来やあしないかえ」
「ええ」と、娘は又うなずいた。
「なんという人だえ」
娘はなにか云おうとする時に、婆さんが手桶をさげて帰って来た。かれは娘を眼で制しながら、半七らに向ってひと通りの世辞などを云い出した。そのうちに又ひと組の参詣人が花や線香を買いに来たので、半七は思い切って店を出た。
「この線香をどうしますえ」と、
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