半七捕物帳
蝶合戦
岡本綺堂
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)老婢《ばあや》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)何万|羽《びき》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)がやがや[#「がやがや」に傍点]
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一
江戸っ子は他国の土を踏まないのを一種の誇りとしているので、大体に旅嫌いであるが、半七老人もやはりその一人で、若い時からよんどころない場合のほかには、めったに旅をしたことが無いそうである。それがめずらしく旅行したということで、わたしが訪ねたときは留守であった。老婢《ばあや》の話によると、宇都宮の在《ざい》にいる老人の甥の娘とかが今度むこを取るについて、わざわざ呼ばれて行ったということであった。それから十日ほど経つと、老人から老婢を使によこして、先日は留守で失礼をしたが、きのう帰宅しました、これはめずらしくもない物だが御土産のおしるしでございますと云って、日光羊羹と乾瓢《かんぴょう》とを届けてくれた。
その挨拶ながら私が赤坂の家をたずねたのは、あくる日のゆう方で、六月なかばの梅雨《つゆ》らし
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