の首を斬って、その胴に善昌の法衣《ころも》を着せて置いたんでしょうか」
「まずそうらしいな。お国はゆうべから帰らねえというが、おそらく来年の盆までは娑婆《しゃば》へ帰っちゃあ来ねえだろうよ」と、半七はにが笑いをした。「それにしても、なぜお国を殺したかが詮議物だ。お国を自分の替え玉にして残して置いて、本人の善昌はどこにか隠れているに相違ねえ。おめえはこれから引っ返して、お国という女の身許や、ふだんの行状をよく洗って来てくれ。そうしたら何かの手がかりが付くだろう」
「ようがす。すぐに行って来ます」
「いや、待ってくれ。おれも一緒に行こう。こんなことは早く埒をあける方がいい」
ふたりは連れ立って又引っ返した。
お国の家は弁天堂の隣り町《ちょう》で、これも狭い露路の奥の長屋であった。近所でだんだん聞きあわせると、お国の評判はどうもよくない。若いときから二、三人の亭主をかえて、今では独身《ひとりみ》で暮らしているが、絶えず一人ふたりの男にかかり合っているらしく、親類の家へ泊まりにゆくというのも嘘かほんとうか判らない。その菩提寺の住職が去年死んで、その後は若い住職に変ったが、その僧とも何かの係
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