たのではあるまいかというのであった。半七は又うなずいた。
型の通りの検視が済んで、そのあと調べを半七にまかせて、役人たちは引き揚げた。町《ちょう》役人や家主も一旦帰った。あとに残されたのは町内の薪屋《まきや》の亭主五兵衛と小間物屋の亭主伊助で、この二人は信者のうちの有力者と見なされ、いわゆる講親《こうおや》とか先達《せんだつ》とかいう格で万事の胆煎《きもい》りをしていたのである。半七はこの二人を残しておいて、善昌の身もと詮議をはじめた。
「善昌は幾つですね」
「自分でもはっきり云ったことはありませんが、なんでも三十二三か、それとも五六ぐらいになっていましょうか。見かけは若々しい人でございました」と、五兵衛は答えた。
「独り者で、ほかに身寄りらしい者もないんですね」
「自分は孤児《みなしご》で、天にも地にもまったくの独り者だと、ふだんから云っていました」と、伊助は答えた。
「よそへ泊まって来たことがありますかえ」
「祈祷などを頼まれて、夜も昼も出あるくことはありましたが、遅くもきっと帰って来まして、家をあけたことは一と晩もなかったようです」と、伊助はまた答えた。
これを口切りに善昌が
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