いるのを早くも覚ったとみえまして、細い声でもし[#「もし」に傍点]と呼んだそうでございます。お通はぞっ[#「ぞっ」に傍点]として黙って居りますと、その女は幽霊のような痩せた手をあげてお通を招いたそうで……。もう堪まらなくなって、あわてて土蔵の扉をしめ切って一目散《いちもくさん》に逃げて帰りました。大蛇《だいじゃ》が口をきく筈がありません。きっと幽霊に相違ないとお通は急におぞ毛だって、それからはもう土蔵へ行くのが忌《いや》になりましたが、自分の役目ですから仕方がございません。その後もこわごわ三度の膳を運んで居りました。しかしだんだん考えてみると、幽霊が飯を食う筈もありません。怖いもの見たさが又手伝って、天気のいい日に又そっと覗いてみますと、うす暗い隅の方から大きい蛇――およそ一丈もあろうかと思われる薄青いような蛇が、大きい眼をひからせて蜿《のた》くって来るようです。お通はぎょっ[#「ぎょっ」に傍点]として立ちすくんでいますと、二階の梯子が又みしりみしりという音がして、なにか降りて来るようです。よく見ると、それはこのあいだの幽霊のような女で……。お通は堪まらなくなって又逃げ出してしまいまし
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