た」
「だいぶ怪談が入り組んで来ましたね」
「それでもお通はまだ辛抱している積りであったようですが、この頃たびたび土蔵のなかを覗きに行くことが寮番の夫婦に知れまして、なんでも厳しく叱られて、おまえも縛って土蔵のなかへほうり込んでしまうとか嚇《おど》かされましたそうで……。それからいよいよ怖くなって、いっそ逃げ出そうかと思っても、夫婦が厳重に見張っていて一と足も外へは出しません。それでも隙をみて、短い手紙をかいて、店の方から来た人にたのんで、姉のところへ届けて貰ったのだそうでございます。お徳もその話を聞いてびっくりしましたが、すぐにどうするという訳にも行きませんので、まあ、もう少し辛抱しろとくれぐれも云い聞かせて、怱々に帰って来ましたようなわけで……。前にも申し上げました通り、ひどく妹思いの女だもんでございますから、どうしたらよかろうと云って顔の色を変えて心配して居ります。桂庵に掛け合って貰って暇を取るのが勿論順道でございますが、三年以上という証文がはいって居りますから、きっとなにか面倒なことを云うだろうと存じます。といって、このままに打っちゃって置くのも可哀そうでございますし、わたくし
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