半七捕物帳
向島の寮
岡本綺堂
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)綿衣《わたいれ》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)三両一人|扶持《ぶち》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「需+頁」、第3水準1−94−6]
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一
慶応二年の夏は不順の陽気で、綿ぬきという四月にも綿衣《わたいれ》をかさねてふるえている始末であったが、六月になってもとかく冷え勝ちで、五月雨《さみだれ》の降り残りが此の月にまでこぼれ出して、煙《けむ》のような細雨《こさめ》が毎日しとしと[#「しとしと」に傍点]と降りつづいた。うすら寒い日も毎日つづいた。半七もすこし風邪をひいたようで、重い顳※[#「需+頁」、第3水準1−94−6]《こめかみ》をおさえながら長火鉢のまえに欝陶《うっとう》しそうに坐っていると、町内の生薬屋《きぐすりや》の亭主の平兵衛がたずねて来た。
「お早うございます。毎日うっとうしいことでございます」
「どうも困りましたね。時候が
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