不順で、どこにも病人が多いようですから、お店も忙がしいでしょう」と、半七は云った。
「わたくしどもの商売繁昌は結構と申してよいか判りません」と、平兵衛は腰から煙草入れを抜き取って、ひと膝ゆすり出た。「実は少し親分さんにお知恵を拝借したいことがございまして、その御相談に出たのでございますが……。いえ、わたくしの事ではございませんが、家で使って居りますお徳という下女のことで……」
「はあ、どんなことだか、まあ、伺って見ようじゃありませんか」
「御承知でもございましょうが、あのお徳という女は生麦《なまむぎ》の在《ざい》の生まれでございまして、十七の年からわたくしの家《うち》へ奉公にまいりまして、足かけ五年無事に勤めて居ります。至って正直なので、家でも目をかけて使って居ります」
「あの女中のことは私も聞いていますが……」と、半七はうなずいた。「家でもどうかしてああいう良い奉公人を置き当てたいものだと云って、うちの嬶《かかあ》なんぞもふだんから羨ましがっている位ですよ。そのお徳がどうかしましたかえ」
「本人には別に何事もないのでございますが、その妹のことに就きまして……。まあ、こうでございます。
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