で」
「もういい、あとは俺が自分でやる」
あくる朝早く起きると、ゆうべ汗を取ったせいか半七の頭も余ほど軽くなった。陰《かげ》ってはいるが、きょうは雨やみになっているので、半七はあさ飯の箸を措《お》くとすぐに町内の生薬屋《きぐすりや》へ行った。女中のお徳をよび出して、妹の手紙をとどけて来たという男の人相や年頃を詳しく訊いて、その足で更に今戸の裏長屋をたずねた。この頃の長霖雨《ながじけ》で気味の悪いようにじめじめ[#「じめじめ」に傍点]している狭い露路の奥へはいって、良次郎の家というのを探しあてると、二畳と六畳とふた間の家に五十近い女と、十四五の小娘とが向いあって、なにか他人《ひと》仕事でもしているらしかった。裏店《うらだな》の割には家のなかが小綺麗に片付いているのが半七の眼をひいた。
「あの、早速でございますが、こちらの良次郎さんは唯今どちらへおいででしょうか」
「はい」と、母らしい女は針の手をやめて見返った。「おまえさんはどちらからお出でになりました」
「霊岸島からまいりました」と、半七はすぐ答えた。
「霊岸島から……」と、女は半七の顔をじっと眺めていたが、やがて起って入口へ出て来た
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