ればかりでなく、三島の家の様子も調べて来るんだぜ。そのおきわという娘に弟妹《きょうだい》があるかどうか。それをよく洗って来てくれ。いいか」
「ようがす」
 松吉はすぐに出て行った。なにぶんにも頭が重いので、半七は湯にはいって風邪薬を飲んで、日の暮れないうちから衾《よぎ》を引っかぶって汗を取っていると、夜の五ツ(午後八時)頃に松吉が帰って来た。
「親分、ひと通りは調べて来ました。娘と駈け落ちした奴は良次郎といって、宿は浅草の今戸《いまど》だそうです。年は二十二で小面《こづら》ののっぺりした野郎で、後家さんのお気に入りだったそうです」
「で、どこへ行ったか、まったく判らねえのか」
「判らねえそうです。無論に浅草の宿にはいねえんですが、どこへ行っていますか」
「おきわには弟妹があるのか」
「ありません。一人娘だそうです」
「そうか」
 少し見当がはずれたので、半七は床の上で首をかしげていたが、そのほかにも松吉が調べて来た三島の一家の事情をそれからそれへと詮議して、半七はなにか思い当ることがあったらしい。にやにや笑いながらうなずいた。
「よし、もうそれで大抵わかった」
「ようがすかえ、それだけ
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