。「じゃあ、三島のお店からですか」
「左様でございます」
云い切らないうちに、女は框《かまち》から片足おろして、いきなり彼の袖をつかんだ。
「それはこっちで訊きたいんです、伜はどこに居ります。良次郎はどこにいます」
逆捻《さかね》じを食って少しあわてた半七は、わざと仰山《ぎょうさん》らしく驚いてみせた。
「おかみさん、飛んでもねえことを……。ここの家で知らないで、誰が知っているもんですか」
「いいえ、そうは云わせません。店で良次郎をどこへか隠しているんです。わたしはちゃんと知っています。お嬢さんと駈け落ちをしたなんて、嘘です、嘘に相違ありません。良次郎は御主人の娘をそそのかして淫奔《いたずら》をするような、そんな不心得な人間じゃありません。ここにいるお山《やま》はほんとうの妹じゃありません。もう一、二年経つと彼《あれ》と一緒にする筈になっているんです。そういう者がありながら、そんな不埒なことをするような良次郎じゃございません。第一あんな親孝行の良次郎が親を打っちゃって置いて、どこへか姿をかくす筈がありません。おまえさんの方で隠しているんです。さあ、どこにいるか教えてください」
気
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