ゃあるめえし、侍が竹槍を持ち出す筈がねえ。こりゃあきっと町人か百姓、多分百姓の仕業《しわざ》だろうと睨んだが、おなじ竹槍を毎晩かついで歩いている気づけえはねえ。第一、昼間その槍の始末に困るから、槍はその時ぎりで何処へか捨ててしまって、突きに出る時には新しい竹を伐り出して来るんだろうと思ったから、民や寅に云い付けて、そこらの竹藪を見張らせていると、案の通りそいつが横網河岸の竹藪へ潜《もぐ》り込もうとするところを、紺屋の長三郎が見つけたというじゃあねえか。狐をつかまえるなんていうのは嘘の皮だ。もう一つには柳原でおれに突いて来た腕前がなかなか百姓の猪《しし》突き槍らしくねえ。穂さきが空《くう》を流れずに真面《まとも》に下へ下へと突きおろして来た工合が、百姓にしてはちっと出来過ぎるとおれも実は不思議に思っていたが、猟師とはちょいと気がつかなかった。あの野郎、熊や狼を突く料簡で人間をずぶずぶ遣りゃがるんだから恐ろしい。さあ、こう種があがったら考えることはねえ。すぐに行って引き挙げてしまえ」
「判りました。ようがす」
 三人は勢い込んでばらばらと起った。

     四

 心無しを使うなと俚諺《
前へ 次へ
全34ページ中23ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング