半七捕物帳
槍突き
岡本綺堂
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)流行《はや》った
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)麹|町《まち》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)わあっ[#「わあっ」に傍点]と逃げ出した
−−
一
明治廿五年の春ごろの新聞をみたことのある人たちは記憶しているであろう。麹|町《まち》の番|町《ちょう》をはじめ、本郷、小石川、牛込などの山の手辺で、夜中に通行の女の顔を切るのが流行《はや》った。若い婦人が鼻をそがれたり、頬を切られたりするのである。幸いにふた月三月でやんだが、その犯人は遂に捕われずに終った。
その当時のことである。わたしが半七老人をたずねると、老人も新聞の記事でこの残忍な犯罪事件を知っていた。
「犯人はまだ判りませんかね」と、老人は顔をしかめながら云った。
「警察でも随分骨を折っているようですが、なんにも手がかりが無いようです」と、わたしは答えた。「一種の色情狂だろうという説もありますが、なにしろ気ちがいでしょうね」
「まあ、気ちがいでしょうね。昔から髪切り顔切り
次へ
全34ページ中1ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング