ところには相当にはいっているかも知れません。不思議に上手なんですから」
「毎晩博奕をうつのか」
「わたしらは毎晩じゃありません。でも作さんは大抵毎晩どこかへ出て行くようです。山の手にも小さい賭場《とば》がたくさんあるそうですから、大方そこへ行くんでしょう」
「よし、判った。てめえもいろいろのことを教えてくれた。その御褒美に御慈悲をねがってやるぞ」
「ありがとうございます」
長三郎はすぐ伝馬町《てんまちょう》へ送られた。七兵衛は今度の事件に関係のある岩蔵、民次郎、寅七の三人を呼んで、本所の木賃宿に泊っている甲州の猟師を召捕れと云いつけた。
「だが、親分。猟師がなんだってそんな真似をするんでしょう」と、岩蔵は腑《ふ》に落ちないように眉をよせた。
「そりゃあ俺にもわからねえ」と、七兵衛も首をふってみせた。「だが、槍突きはその猟師に相違ねえと思う。俺がこの間の晩、柳原の堤《どて》で突かれそくなった時に、そいつの槍の柄をちょいと掴んだが、その手触りがほんとうの樫《かし》じゃあねえ。たしかに竹のように思った。してみると、槍突きは本身《ほんみ》の槍で無しに、竹槍を持ち出して来るんだ。十段目の光秀じ
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