ちんやど》に泊まっている。かれは小博奕の好きな男で、水茶屋ばいりの資本《もとで》を稼ごうとした長三郎が、かえって彼に幾たびか巻き上げられたということであった。
「その猟師はなんという男で、てめえはどうして識っているんだ」
「名前は作さんと云っています。たしか作兵衛と云うんでしょう」と、長三郎は云った。「わたくしが作さんと懇意になったのは、この月の初めに親方の使いで、猪肉《ももんじい》を少しばかり内証で買いに行ったときに、作さんは店に腰をかけていて、おたがいに二タ言三言挨拶したのが初めです。それから二、三日経って、わたくしが宵の口に横網《よこあみ》の河岸を通ると、片側の竹藪のなかへ作さんがはいって行こうとするところで、今そこで狐を一匹見つけたから追っかけて行こうとするんだと云いました」
「狐はつかまえたのか」と、七兵衛は訊いた。
「わたくしと話しているうちに、もう遠くへ逃げてしまったから駄目だと云ってやめました」
「その猟師には博奕で幾らばかり取られた」
「わたしらの小博奕ですから多寡が四百か五百で、一貫と纏まったことはありません。それでもほかの者から幾らかずつ取っていますから、当人のふ
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