と云っているうちに、鳥の姿はもう見えなくなった。その騒ぎを聞きつけて伊四郎も又作もびっくりして駈けつけたが、今更どうする術《すべ》もないので、三人は顔の色を変えて、しばらくは唯ぼんやりと突っ立っていた。まして其の本人の金之助は殆ど生きている心持はなかった。それに係り合いのお八重もどんなお咎めをうけるかとふるえ上がった。
なにしろ、これは内密にして置いて、なんとかして彼《か》のお鷹を探し出すよりほかはないと、年嵩《としかさ》の伊四郎がまず云い出した。実際それよりほかには知恵も工夫もないので、二人もそれに同意して、丸屋の者にも固く口止めをして置いて、早々に千駄木の御鷹所《おたかじょ》へ帰って来た。当人の金之助は勿論であるが、連れ立っていた伊四郎、又作も何等かのお咎めは免かれないので、その親類一門も俄かにうろたえ騒いで、寄りあつまっていろいろ評議の果てが、これは内密に町方《まちかた》の手を借りて詮議するのが一番近道であるらしいということに決定して、金之助の叔父の弥左衛門が取りあえず山崎善兵衛のところへ駈けつけたのであった。
この事情をくわしく話した上、善兵衛は一と息ついた。
「まあ、そんな筋道なのだが、どうだろう、何とかなるめえか。心柄とは云いながら、本人はまず切腹、連れのものも御役御免か、謹慎申し付けられるか、なにしろ大勢の難儀にもなることだ。考えてみれば可哀そうだからな」
「そうでございますよ。御鷹匠もこの頃あんまり羽《はね》を伸ばし過ぎるからね」と、半七は云った。「併しそれはまあそれにして、出来たことは何とかしてやらざあなりますまい。まったく可哀そうですからね」
「なんとかなるだろうか」
「生き物ですからね」と、半七は首をかしげていた。
おなじ生き物のうちでも飛ぶ鳥と来ては最も始末がわるい。まして鷹のような素捷《すばや》い鳥はどこへ飛んで行ってしまったか判らない。それを探し出すというのは全く困難な仕事であると、さすがの半七も胸をかかえた。
「まあ、なんとか工夫して見ましょう」
「工夫してくれ。光井金之助の叔父も涙をこぼして頼んで行ったのだからな」
「かしこまりました」
ともかくも受け合って、半七は善兵衛の屋敷を出たが、どう考えてもこれは難儀の役目であった。雲をつかむ尋ね物というが、これは空を飛ぶ尋ねものである。神田へ帰る途中も彼はいろいろに考えた。
「家《う
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